条例審査ガール ep-55

「簡単に言えば、基礎自治体が行う空家防犯対策は、どこまで効果が出るかは不明だが、条例上の規定が一切無くとも可能ではないのか。逆に言えば、条例上の根拠が無ければ出来ないことはあるのか?」
「立入調査とか?」
「立ち入ってどうする?そこに何らかの犯罪を起こした、あるいは起こしうる犯人がいて、現行犯逮捕でもするか?現行犯逮捕なら何人でも可能であるし、理想かもしれない。しかし、全ての空家に定期的に立ち入ることは不可能だろうし、何を動機にして立ち入るか否かを決定する?そもそも空家特別措置法では、立入調査規定は犯罪のためのものではないと明記している。」
「代執行とか?」
「除却してどうする?犯罪予防のための除却ということであれば、状態にかかわらず、全ての空家を除却する必要があるのではないか?」
「除却ではなく修繕や保全…、は関係ないか。あくまでも一時的だし…。」
「結局、ただでさえ仕事が増えヒト・カネが減っている基礎自治体の行政力では限界があろう。防犯対策は本来的には警察行政の分野だ。基礎自治体としては地域警察と連携を取るのが現実的ではないか。」
「でも、連携の元ネタがないんじゃ?」
「目的にかかわらず、空家であるのか否かの調査、空家である場合の情報把握は法律上可能であるし、目的にかかわらず実施する必要がある。9条1項だな。そして空家である場合はそれ情報を周辺住民や地域警察に情報提供するしかないだろう。」
「情報提供?さっき、意味がないとか、リスクもあるって…」
「一般的に、制裁目的の公表とか、制裁目的ではない単なる情報提供などは、誰でも閲覧できるような方法で行われることが多い。告示や公告、ホームページ掲載などでな。そういう方法ではなく、空家に利害を有する者のみに限定的に情報提供をするしかなかろう。さっき言っただろう?『客観的に見て使用されていないと思われるような建築物が存在していた場合、やはり気にはなる』と?空家が存在して不安になるのはその地域に住む住民なのであって、全市民に周知する意味は無かろう。」
「えーっと、まとめると、防犯目的は条例では規定する意味がないとしつつ、防犯目的のために法律を使う、と。ちょっと矛盾しているようにも思えますが。」
「矛盾などしていない。空家対策として得た情報の一部を防犯対策にも活用するということだ。」
「そうすると個人情報の問題が出てくるから、やはり条例上情報提供の根拠規定を置くべきではないかと?」
「空家の所有者情報を情報提供して何の意味がある?『あの建築物は空家です。何かあればご相談してください』ということを情報提供するだけだろう。それのみで個人を特定できるのか?」
「しかし、プライバシーの問題があるんじゃ…。」
 フジはやや笑みを浮かべる。
「ふむ、確かにその通りかもしれない。個人情報とプライバシーとは、重複する部分もあるが別の概念だ。個人情報保護上の問題が無くとも、プライバシー保護の観点から問題が生じることはありうる。建築物をどのように使うのかはその所有者の自由であることを考慮すれば、空家であるという事実もまたその所有者のプライバシーの範囲内ともいえなくもない。空家であることを隠しておいてもらいたいと思う人もいないではなかろう。一方で、空家であること、あるいは空家であるかもしれないことについて不安を覚える住民も多い。では、どうすれば丸く収まると考える?」
 そういえば、以前、『空家対策特措法において『特定空家等』という用語は、実はあまり登場しない。強制措置を定める14条においてこそ多用されているが、その他の規定にはほとんど出てこない。そこがポイント』だと言っていたことを思い出した。
「防犯目的にとどまらず、空家情報をその利害関係人へ情報提供できる根拠規定を置く…?」
「防犯目的という概念を無理して入れるから条例がややこしくなる。基礎自治体にとっての空家防犯は、『空家条例上の目的』ではなく、空家法制に基づき確実に空家対策、すなわち、予防・活用・除却を進めれば結果的、あるいは必然的に生じうる効果、として位置づけるべきなのではないか。よって、そうする場合はどうする?」
「第1条の目的規定における最上位の目的として位置づける…?」

条例審査ガール ep-54

「これは特措法にはない防犯目的を加えているということですよね。」
「そういうことのようだ。確かにこのように空家条例において防犯目的を追加して規定している例はある。空家であれば、犯罪の温床にもなりうるし、放火された場合に通報や初期消火が遅れる可能性もある。そういう意味では防犯目的を意図することは適切であろう。」
「じゃ、なぜ特措法では規定されなかったんですかね?」
「この法律は議員立法なんだが、衆議院法制局の職員が書いたレポートでは、防犯を直接の目的としなかったのは防犯は警察活動による治安対策として行うのが適切であると考えたかららしい。空家対策ではなく、そもそもの治安対策だろうということなんだろう。」
「それはそれで分かるような気もしますね。」
「仮に防犯目的として空家対策を行う場合、どのような管理を所有者等に求めるのか。門扉をしっかりと閉めておけば足りるのか。」
「門扉を閉めたとしても、無断立ち入りはある程度減るかもしれないけど、放火はなくならないんじゃ…。」
「基本的なことだが、適切に管理をしてさえすれば、仮に使用されなくとも、問題のある空家、つまり特定空家等ではない。特措法において空家等から特定空家にレベルアップする4要件は、すべて適切な管理がなされていないことを前提としている。一方、防犯は、適切な管理をしていても生じうる。第三者、すなわち犯罪者の行為が介在するからな。この差は大きいように思える。」
 防犯目的を加えることを理解した際に感じた違和感はこれであった。特措法の強制措置は適切な管理がなされていない空屋のうち一定の基準を超えるものを対象にしている一方、この条例案は空家そのものを対象にしているようにも思える。
「適切な管理をしていても、倒壊等は起こりえるのでは…。」
「倒壊等を惹起するような管理が果たして適切な管理といえるのか。なお、よく問題となるゴミ屋敷対策の条例も存在するが、これは空家条例とは、重複する点もあるが、本質的には異なると考えている。つまり、ゴミ屋敷条例はゴミの除去を目的とし、その家屋の使用・不使用は問わない。一方、空家条例は、その家屋の使用・不使用及び管理が適正か否かを問題としている。だから仮にゴミ屋敷であっても実際に使用されていれば空家ではないため、その家屋は空家条例の対象とはならない。」
 フジは続ける。
「この条例案は『空家であること自体』を禁止しているように思える。空家であること故に起因する防犯目的を達成するためには、極論すれば、空家を無くすしかない。なぜならば、空家であれば防犯上の問題が生じうるということを前提としているからな。防犯上の問題が生じ得ない空家と生じうる空家の基準でもあれば別だが。当然のこと、そして基幹的なことだが、建築物の所有者がそれをどの程度使用するか、あるいは使用しないか否かは、当然所有者の自由だ。そして、その不使用あるいは不適切管理により周囲に悪影響を及ぼしうる状態になってはじめて具体的な法規制の対象となるということなのだろう。その証拠に、特措法においては『空家等把握調査』は空家等を対象としているが、より強い『立入調査』は『特定空家等』対策のみを対象としている*1。」
 そのような基準や統計はあるのだろうか。見た目は立派な空家だから放火されないとか、朽ち果てる寸前の空家だから放火されやすいとかいう統計などが存在するのか。感覚的には理解できるかもしれないが。また、仮にあったとしても、この条例に防犯目的を加えることが適切なのだろうか。
「また条例案のいう『空家の活用』とは何を意図しているのか、だ。」
「そりゃ、居住者を探したり、一時宿泊施設として、とかでは?」
「探している間に放火されたらどうする?すぐには居住者などが見つかるとは思えない。」
「うーん、道路の街灯を多くしたり、明るくしたりすれば…。」
「であるならば、やはりそれは空家対策ではなく治安対策だということだ。空家の周りのみ街灯を多くするわけにはいかないだろう。付け加えれば、この条例案には公表規定が存在する。趣旨は制裁措置なのだろうが、防犯目的を加えておきながら空家の具体的場所を公開するとどうなる?」
「うーん…」
「犯罪者にとって有益な情報ではないか?」
「まぁ、行政のお墨付きですからねぇ。」
「それを上回る効果が想定されるのであればいいが。」
「それはワタシも考えてました。制裁としての意味はないんじゃないかって。だって、周辺住民は空家の所有者の情報は知っていることも多いだろうし、仮に知らずとも、その所有者の情報を知ったところで何の意味もないし。」
「そうかもしれない。所有者としては、一旦氏名を公表されればその空家に戻りにくかろう。逆に開き直られることも想定される。」
 制裁的機能はない、ということは、情報提供としての効果はあるのだろうか。この情報提供的な公表をうまく使えば、防犯目的というものを条例の前面に出す必要はないのではないか…。
「さて、話は戻るが、空家条例と防犯とはなかなか結びつきにくいが、一般的な感覚からして、客観的に見て使用されていないと思われるような建築物が存在していた場合、やはり気にはなるのではないか?」
「そうですねー。この建物ってどうなんだろう、とか。誰か潜んでいるんじゃないか、とは思ってしまいますね。」
「そう感じるのが一般的であろう。だから、空家問題と防犯問題とは無関係ではない。」
「じゃ、条例に入れた方がいいと?」
「無関係ではないから条例で明記すべきとは、必ずしもならない。」

*1:特措法9条

条例審査ガール ep-53

「大体、説明は以上です。」
 空家条例案についての説明が一通り終了した。
「内容に入る前に、この条例の必要性についてより深く知りたいんだが。特措法が施行されるのは事実だが、なぜオリジナルの条例が必要なのか。また、条例案では法に定めのないものも規定されている。それはなぜ必要なのか。できれば、宝亀市の実態なども知りたい。」
「そうですねぇ、国全体として見れば空家が増えてきているというのは事実です。また、宝亀市においても同様と考えています。確かに、宝亀駅周辺などの市街地ではまだそれほど目立ちませんが、郊外に行けば、目に付くようになってきています。住宅もそうですが、どちらかといえば、空き店舗の方が多いのではないかと感じています。」
「何か差し迫った問題点は?」
「例えば、この場所に元クリーニング店があります。」
 担当者は地図を指し示す。
「このクリーニング店がいつ廃業したのかはわかりませんが、かなりひどい状況です。」
「ひどい状況?倒壊するのか?」
「いや、倒壊するかどうかは我々は専門家ではないので分かりませんが、店舗入り口のドアのガラスが割れているのです。」
 「我々は専門家ではない」という言葉にアキは担当者の本音を感じた。
「で、実はこのクリーニング店、通学路沿いに立っていて、かなり危険ではあるんです。幸いにも、近所の人が応急措置をしてくれていて、切迫した危険性はないんですが。」
「要するにそういった事態が今後も想定されると。いつまでも市民の自発的互助精神に頼るわけにもいかない、と。そんなところか。」
「そうです。」
 こういった未然予防型規制条例の立法事実はなかなか難しい。ハードルを上げすぎると危険性が顕在化した際に行政の不作為を問われる。ハードルを下げすぎると行政権の肥大化につながる。
 今回は法制定という社会背景や、実際に空家が増えているという統計データ、そして、実際に宝亀市でも同様である。使用・管理がなされない建築物・工作物が朽ちるのは意外とと早い。よって「何らかの施策」は必要であろうということは明らかである。あとは、それを実現する手法の問題なのであろう。即ち、条例の内容である。その段階でオリジナル条例の必要性の是非も明らかになるであろうとフジは考えた。
「ひとまず今日は説明を聞いて、こちらでもこれから検討するが、一点。この条例案には『防犯』という考え方を含めている。一方、特措法には防犯はない。なぜ法律は防犯を除外したのか確認したのか?」
「実は、してません。」
「ではなぜ加えたのか?」
「他の自治体の条例を見て。確かに空屋だと、放火されてもなかなか気づかれないし、犯罪者が逃げ隠れていても誰も気づかないな、と思って加えたのですが。何か?」
「いや、防犯目的の代執行とはいったい何が想定されるのか、と思ってな。」
「うーん、強制除却ですかね。門や鍵を閉めただけでは放火は防げませんからね。」
「そうか。」


 所管課との協議は小一時間で終了した。アキの出番は無かった。
「では明日の午後、2人で検討するぞ。それまでに疑問点を出しておくように。」

 翌日。


「疑問点を出してもらおうか?」
 昨日の打ち合わせの後も考えてはいたが、やはり疑問点は解消されない。アキは自らが抱く疑問点・疑義点をすべてぶつけてみた。
「確かにこの条例には、規定振り以前の問題として、検討すべき点は多い。」
 ということで、一つ一つ検証することになる。
「まずは、定義規定、この『不健全空家等』とかいうやつだな。」

条例審査ガール ep-52

(うーん、これは一体・・・?これとこれも・・・)
 地域安全推進課から送信されてきた条例案を一通り読んではみたが、空家特別措置法を意識した作りであることは明白であったものの、あまり理解できない部分もある。最初の打ち合わせは明日の午後。とりあえず最初は一通り説明を受けることとしているが、今回もそれでよいのか。あるいは、あらかじめ主担当のフジと相談しておいたほうがよいのか。なかなか悩ましい。やりかたって明確なルールがあるわけではなく、担当それぞれなのである。
 アキは視線をフジの方に送ってみたが、肝心のフジは課長と話しこんでいる。まだメールは見てないようだ。
 しょうがないので、アキは自分なりに論点を押さえておくこととした。
 まずは「目的」は、規定振りは措いておいて、まぁいいか。
 続いて「定義」。定義と銘打ってはいるが、実質的にこれがこの条例の射程範囲である。
 最も重要なものは「空家等」の定義だが、『「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は本市その他の地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。』とされており、法律とほぼ同じであった。しかし、どういうふうに運用していくんだろう?
 次に「不健全空家等」である。これは「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、第三者の侵入による火災又は犯罪が誘発されるおそれのある状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」としている。
 空家対策特措法は「特定空家等」としているが、なぜか条例案では「不健全空家等」とされている。違いは「不特定者の侵入による火災又は犯罪が誘発されるおそれのある状態」が加わっていることだ。
(・・・、あぁ、「防犯」か。)
 条例案には、空家対策特措法には規定されていない「防犯」が加わっている。何となく違和感を覚えてしまう。なんだろう、これは・・・?何かがおかしいように思える。
(ま、いいや、とりあえず。)
 責務規定や活用は理念的な規定だから、後でいい。最後のほうで規定振りを修正すれば足りる。この手のやつは書かないと格好がつかないのであろう。気持ちは理解できる。
 最初の関門は『第7条 市長の立入調査等』である。
 市長による立入調査権は空家対策特措法で明記されている。なぜ条例で再び書かないといけないのか?この条文を読んだとき、法律で規定されていることも条例で規定しなおす条例を制定するスタンスなのだろうかと思ったが、よくよく続きを読んでみると、必ずしもそうではない。全体的なスタンスがよく分からない。
 『第8条 命令及び代執行』も同様であるが、不思議なことに空家対策特措法を準用しているだけであった。もはや意味が分からない。
(何か深い意味があるのかなぁ・・・)
 この条例案の闇は予想以上である。アキは底知れぬ恐怖を感じた。
(第9条は「即時強制」だよね。予想通り・・・、あれ?2項に「所有者等から費用徴収する」って書いてある・・・。即時強制に要した費用って、徴収できるんだっけ?)
 続いて『第10条 周知、公表等』である。見出しは2つ以上の行為がありそうだが、1項のみしかなく、周知と公表との差異が不明であった。
 最後に『第13条 税情報の提供』である。
(これもなぜ規定するのか・・・)
条例案が届いているな。」
 アキは不意に声を掛けられた。声の主はフジであった。

条例審査ガール ep-51

 結局、事務管理はダメっぽい。事務管理の勉強にはなったし、豊田市の事例も知ることが出来たので、決してマイナスではないが、残念ではある。
 そもそもなぜ事務管理と検討することになったのか、その原因を経緯から考えれば、雪かきの事例を出してしまったからであり、詰まるところ、建築基準法令の知識が足りないハチの責任である。
 そういえば、その責任者であるハチは昨日から行政法の本を読んでブツブツ独り言を放ちつつ、自分なりにまとめているようであった。おそらく「即時強制」について調べているのだろう。
「ハチくん?それって即時強制を調べているんだよね?」
「ん?そう。自分なりにね。」
「それ、頂戴ね!完成したらでいいから」
「え?あ、いや・・・、個人的なメモだから・・・」
「昨日、建築基準法のこととかいろいろ教えてあげたよねぇ?」
「ホチキス止めして贈呈します!」
「そういえば、ハチくんの受け持ちの条例、条項ズレの簡単なものだったけど、他に何かお手伝いするんだっけ?」
「訴訟チームから、準備書面の確認をお願いされてて・・・」
「そういえば、前回*1パブコメ条例でバタバタしちゃって、それどころではなかったからね。今回は腰を据えて、かな、いよいよ。」
「でも、なぜ自分なんだろう?」
「そりゃー、ハチくんが理解できるレベルで完成されていれば、裁判長は理解できるだろうからね。準備書面では『分かりやすさ』っていうのがけっこう重要だから。」
 自分が理解できるならば裁判長でも理解できる。確かにそのとおりだと思う。しかし、それが自分が選ばれた理由になるのだろうか。仮になりえるとした場合、どういう意味なのだろうか。
「それで、あの時と同じ事件なの?別の事件なの?」
「え、あ、えーっと、似ているけど別なヤツで・・・。」
「あ、別の事件なんだ。」
市道を走行していたら石が跳ねて車体に傷がついたから賠償請求されている事件。こちらの書面を読んでいてもよく分からなくて。こーゆーのって無過失責任なんじゃないのかな・・・。」
「その、よく分からないことを明らかにしてもらいたいんじゃない?訴訟チームは。」
 これはなんだかややこしそう、あまり首を突っ込まないほうがよさそうだ、と直感的に感じたアキは具体的な質問の回答をしなかった。
 踵を返して自席のパソコンに向かい、メールをチェックすると、生活部地域安全推進課からメールが来ていた。明日の打ち合わせのため条例案をあらかじめ送付してきたのである。
 「どれどれ」
 ひとまず「見出し」を追う。もはや一種の習性といってもいいのかもしれない。

第1条 目的
第2条 定義
第3条 市長の責務
第4条 所有者等の責務
第5条 市民の責務
第6条 空家等の活用
第7条 市長の立入調査等
第8条 命令及び代執行
第9条 応急的な対応等
第10条 周知、公表等
第11条 専門家の助言、派遣等
第12条 関係機関との連携
第13条 税情報の提供
第14条 協議会
第15条 委任

条例審査ガール ep-50

 参考程度に『wikipedia』で事務管理を調べていたアキはある一文を発見した。

『管理者に公法上の義務が存在する場合にも事務管理は成立しうる』

 これって、どういう意味なんだろうか?ここでいう『公法上の義務』って何だっけ?そういえば以前聞いたことがある。確か、法令上広く一般的に課せられた義務であって、誰かしら第三者との間に形成された具体的な義務ではないもの、という感じであったか。
 よって字面上は、行政による空家対策に事務管理という概念が入りうる余地がありそうな印象を受けた。しかし、何か違和感が残る。
 アキはもう一度民法の教科書を読むこととした。さっきは、事務管理の要件の部分しか読んでいない。今度は最初から読んでみよう。
(・・・、「法律上の扶助義務」?)
事務管理に相当する行為が、法律上義務付けられている場合がある』
(例えば、船員法14条本文や水難救護法2条1項?こんな法律読んだことない・・・)

○船員法
 (遭難船舶等の救助)
第14条 船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合は、この限りでない。

○水難救護法
第2条 遭難船舶アルコトヲ発見シタル者ハ遅滞ナク最近地ノ市町村長又ハ警察官吏ニ報告スヘシ

『そのような救助行為が同時に民法上の事務管理を構成し、費用償還請求権が生ずることは認めるべきであろう。自己の費用で救助活動を行うことまでを義務づけられているわけではないからである』
『他方、警察官、消防署員、自衛官の救助行為は職務そのものであるから事務管理にはならない』
 こりゃダメだ、アキは直感的に悟った。
 確かに空家対策特措法上定められた市長の責務は抽象的ではあるが、空家対策を行うことが自治体の職務そのものであることには何ら変わりはない。だから、事務管理の要素を構成しうる「義務がない」ともいえないであろう。
 そもそも空家対策措置法の目的規定は「生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進するため」とされているし、同法で定められている行政代執行の要件は「その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」であるから、空家対策が「所有者の為に」ではないことは明白である。
「やーーーーーめた、っと!」
「結論が出たようだな。」
「ムリです。」
「一般的な見解では難しいというところだな。しかし、行政活動でも事務管理が成立しうるというのは非常に重要だ。先の裁判例豊田市の事例だが、費用徴収に対する姿勢は尊敬に値するといってもいいだろう。普通なら、調査はするであろうが、その費用徴収まではしない。これは推測だが、事務管理と位置づけるのには相当勇気が必要であったはずだ。」
「でも、雪かきくらいは事務管理でできるんじゃないかなぁ」
「その雪かきをどう位置づけるかによるのだろう。空家対策ではない、単なる居住者向けの行政サービスとして位置づければ可能性はゼロではない。ただし、その場合に敢えて事務管理とする必要はないようにも思えるがな。」

条例審査ガール ep-49

「あるんですか?」
名古屋高裁だな。平成20年くらいだったか。愛知県内の産廃業者が、その所有地に大量の産業廃棄物を保管していて、自治体がその産廃業者に対して、その撤去の代執行をしようとしたが、その前に大量廃棄物が環境に及ぼす影響を確認するための調査を事務管理として行った。それで、その費用を産廃業者に請求し、認められた。簡単にいえば、そんな事件だったはずだ*1。」
「行政による事務管理って成立するんですね。」
「少なくとも排除はされていないだろう。民法上の要件に合致すればありうる話しだ。費用も徴収できるから、今後一層活用すべき方策かもしれんな。」
「あれ、ん、んっと・・・」
 何かが引っかかる。
「なんだ?」
「それって、代執行が検討されていたってことは、その会社は撤去を拒否していたんですよね。なのに、その事前調査は反対しなかったんですか?」
「訴訟になるくらいだから、拒否していたんだろう。」
「だとすると、『最も本人の利益に適すべき方法に依り』『(本人の)意思に従ひて』という要件を満たさないんじゃないかと。」
「明文をそのまま読めば、そのように解釈できる。しかし、その裁判例では、たとえ管理行為が本人の意思・利益に反するような場合であっても、それが社会利益に反するときには考慮すべきではなく、事務管理が成立するとした。民法の解釈を相当拡大したような印象を受けるな。」
「はー。」
 確かに条文の真逆をいく判断だが、「民法は正直者がバカをみないルールであるべき」と考えているアキにとっては、当然のようにも思える。
「まさかとは思うが、空家対策として事務管理の活用の可能性を考えているのか?」
「えー、まー。ありうるとは思っていますけどね。」
 フジが教えてくれた裁判例の事案でも事務管理が成立するということは、空家対策としての事務管理も成立しうるのではないか・・・。
「ちなみに、事務管理として行った調査は、自治体の業務ではなく、産廃業者の業務とされ、自治体からすれば『他人の事務』とされていた。だから、その調査を行う義務が自治体にあるわけではない。確かに、この裁判例では、本人が反対の意思を明確に示していた場合ですら、公益上考慮する必要が無いということで事務管理を認めた。そうである以上、空家について、所有者が不明でその意思も不明であったとしても、公益上必要があれば事務管理の要件の1つは満たすかもしれない。しかし、だ。」
「そもそも自治体の義務であるかもしれないし、『空家の所有者のため』ではない、ということでしょ?」
「そうだ。一度、判例検索して読み込んでみるといいい。」
「はぁ。」
 判例検索は苦手であった。求めているものと一致するものがなかなか見つからないことが多いし、その「ハズレ」という結論に至るまでに一定程度は読み込まないといけない。ある程度読んでみて、全然ハズレだったときのショックは大きい。それが何度も続くとやる気は完全に喪失される。
「えーっと、整理すると」

1 「義務なくして」→怪しい
2 「他人の為めに」→かなり怪しい
3 「事務の管理を始めたる」→問題ない
4 「最も本人の利益に適すべき方法に依り」「(本人の)意思に従ひて」→おそらく問題ない

「うーん、『他人の為め』にも該当するんじゃないのかなぁ・・・。義務っていっても、具体的な義務が特別措置法で明記されたわけじゃないし・・・。」