敵から学ぶ

 「http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20150702/p2」でご紹介の書籍において

訟務事務の手引―〈行政庁自治体公法人〉職員のための訴訟対策ガイド

訟務事務の手引―〈行政庁自治体公法人〉職員のための訴訟対策ガイド

 が挙げられています。
 ワタシも所有していますが、残念ながら「具体の訴訟に現実的に対応する訴訟担当」的にはほとんど参考になりませんし、実務的に使用する機会はほとんどありません*1
 不幸にもそんな「具体の訴訟に現実的に対応する訴訟担当」になっちゃった人は
要件事実入門

要件事実入門

から始めるのがよいかと思います。
 では、上記書籍を読みさえすれば「具体の訴訟に現実的に対応する」ことが可能かというと「否」と言わざるを得ません。「具体の訴訟に現実的に対応する」ということ、すなわち準備書面等を作成するための術の全てが上記書籍に書かれている訳ではありません。
 というか、訴訟なんて事案によりにけり、なんだから、すべてを網羅できるマニュアルなんてありません。いわば、準備書面には1つとして同じものはないとえるのでしょう。
 では、どうすればよいのか。
 ワタシも最初のころは苦労していました。
 相手方から書面が届くたびに「反論することは可能だが、書面全体としてどういう構成にしていいのか」が分からず、苦悶することが多かったです。
 個人的に、準備書面というものは「読まれてナンボ」「理解されてナンボ」だと思っております。逆に言えば、読まれなければ意味がない、読まれても理解されなければ意味がない。裁判官が優しく、ヒマな人ならいいのでしょうが、なかなかそうではないでしょう。役所の内部手続みたいに、直接レクできる機会が常に用意されているわけではありません。
 よって、ベストな書面というのは、1回読むだけで頭にスーッと入るようなものだと考えています。
 やや偏見かもしれませんが、公務員っていうのはこの手の書類を作るのが苦手な人種なのかもしれません。
 疑問があれば直接説明すればいいと思っている人は多いでしょう。また、いわゆる「ポンチ絵」的な重要なポイントだけを抜粋した資料を作成することや、「議会答弁書」や「行政計画」みたいな曖昧模糊としたものの作成に慣れていて、精緻な理論を整然と分かりやすく文書化する作業に慣れていないように思えます。
 じゃ、どうしたか?
 簡単です。相手方の書面や別の事件の書面から勉強すればいい。
 とはいえ、いろんな書面があるのですが、その中で、1度読んでみて頭に入ってきたもの、何言ってんだかわからないものがあるかと思います。
 前者については「なぜ頭に入ってきたのか」、後者については「なぜ理解できなかったのか」を、それぞれ分析したりしていました。
 とはいえ分析結果はここでは書けませんが、この1年間で様々なことを相手方から学ばせてもらったように思えます。

*1:横断的に関わる法規担当にとっては有用です。

条例審査ガール ep-40

 結局、電子申請を巡る改正漏れ疑惑事件は未遂に終わった。公園管理課では電子申請に関する要綱を定めていたのであった。ただ、それを定めてから10年近く経過していて、その存在を誰も知らなかった。
 そして、ひょんなことから電子申請の根拠を調べてみたら、条例にも規則にも、規定されているのは「書面」のみ。これはまずいということで法規課に相談に来たらしい。
 その法規課の若い担当者においても制定から10年近く経過している「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」の存在を知ることはなかった、という次第。


「ふじねぇは知ってたんですか?パソコン条例」
「パソコン条例?行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例のことであれば知っているが。そして、それを活用して電子申請が認められていることもな。」
「あー、そうですか(知ってるなら教えてくれればいいのに・・・)」
「まぁ、無駄な規則改正をせずに済んでよかったではないか。いずれにせよ、条例などをいじくるだけが法規課の仕事ではなく、法律や条例などの活用方法を示すのも重要だということだ。」
 アキにとって、今のフジの発言はあらかじめ用意していた発言、待ってましたといわんばかりの発言のように聞こえた。
(しかし、自分で調べて改正不要との結論に辿りつくとはなかなかだな。きっかけがハチの規則調査であったとはいえ、改正は不要ではないかという選択肢を自ら登場させようとは思わなかった。)
「しかし、ハチくんも粘りますねぇ。分からないなら分からないと素直に言えばいいのに」
「ああ、あの宿題、まだできてないんですか?」
「ま、あの宿題は、正解にたどり着けるかを見るものではなく、どこまで粘り強く取り組むことができるのかを見るものなんですがね。」
「そういう意味では合格ですかね。」
「ここまで粘ったなら、正解までは求めませんが、何らかの答えを出してもらいたいですねぇ。」



「課長、分かりました。」
 ハチがまとめた回答は、国の訴訟体制は、法務大臣法務省・法務局の訟務部門と、各省庁・各行政庁の職員とで対応しているが、この法務省の訟務部門は正に高い専門性を有している集団であるので、国はなかなか敗訴しない、というものであった。
「お、おぅ・・・。」
「そうきたか・・・。」
「ま、そういう面もないわけではないかもしれませんね、きっと。最近はけっこう負けてますがね。」
 課長はそう言うと、正解を教えるべきか、はたまた教えないべきか、若干迷ったが、やはり教えるべきだろうということで、説明することとした。



「・・・ということなんですよ、ハチくん。ま、これは憲法や訴訟全般のお話しですので、難易度は比較的高めですから。それに、正解することを期待していたわけではなく、どのように取り組むのかを知りたかっただけです。いずれにせよ、訴訟法も必要に応じて勉強しておいてくださいね。」
 うな垂れて自席に戻るハチ。
「あまり気にするな。アキも全く分かってなかった。」
「ちょ、全くではないでしょう?」



 (第1部 完)

おまけ

 ということで、さっさと終わろう、終わろうと思っていたら40に至ってしまい、ダラダラと駄文を重ねてしまいました。
 ちょこちょこと触れてはいましたが、パブコメ条例→準備書面→空家対策、という展開を想定していましたが、夏くらいまではちょっと業務により一層集中せざるを得ず、ここらで一区切り、とします。
 いや、パブコメ条例→準備書面→空家対策というものを書いていくのが面倒になった、という訳ではないですので(面倒なのはその通りですが)、また手が空いたころに、とは考えているところです。

条例審査ガール ep-39

「そういえば、パブコメってどうなったの?」
 課長から出された宿題に頭を悩ませていたハチがアキに尋ねる。
「あー、あれは、法規課としては条例は1本でいいのではないかと考えているが、企画課として2本必要で考えるのであれば、その2本の条例案を作成してください、ってメールしておいた。それで、案がある程度カタチになったころにまた連絡が来ると思うよ。」
「公園の電子申請は?」
「・・・(イラッ)。課長の宿題は?」
「いや、まだ全然・・・。」
 まぁ、それはしょうがない。アキにとってみても課長の宿題はハチにとって難しすぎるのではないか。国を提訴している事件と自治体を提訴している事件の判決を読むだけではなかなか分からない。国家賠償法等による賠償請求と住民訴訟による代位請求との差異とに気がついたとしても、主観訴訟と客観訴訟との差異や、政教分離と私人の権利侵害まで到達できるとは思えない。
「ま、分からないなら、分からないって言うことも大事だからね。」
「うーん。」
 残念ながら全く分からない。
ハチは気分転換に電子申請を許容している規則の確認を行うこととした。
宝亀市で電子申請できるものって、これとこれか・・・。で、根拠規則は・・・。)



「えーっとですね。ご報告いたしますが、あー、非常に言い辛いことなんですが、宝亀市で電子申請が行われているもののうち、規則上電子申請が規定されているのは、どちらかというと少数派のようでして・・・。」
「え?」
「この『電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法』っていうのが電子申請なんでしょ?だとすると、規定がないものも多いよ。」
 それが本当なら、その全てが改正漏れなのか?ひょっとして「パンドラの箱」を開けてしまったか。それとも「規定がない」のが正解なのか。仮にそうであればそんなありがたいお話はない。
 アキは「電子情報処理組織」という用語で例規検索してみた。
(けっこうな数がヒットするねぇ。)
 検索結果を1つ1つ確認していくと、あまり見覚えのない条例に行き着いた。
(「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」?何これ?施行規則もある。)



「あーーーっ!!」
 突如、アキの叫び声が法規課内に響いた。
「ハチくん!公園管理課に電話して、来られるようなら今から打ち合わせしよう!」
「は?」
「方向性が出たの。」
「は?」
「規則改正は不要ね、多分」
「全然分からないんだけど・・・。」
「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例っていうものがあって、申請に関する他の条例等の規定により書面により行うこととしているものについては、その条例等の規定にかかわらず、規則で定めるところにより、電子情報処理組織を使用して行わせることができる、ってされているの。」
「でも、その規則が・・・。」
「その規則は行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例施行規則のことだから。だから後はより細かい事項を要綱かなんかで定めていれば、個別の条例や規則に根拠規定がなくとも、電子申請が許容されるはず。」

条例審査ガール ep-38

 厄介な宿題を課長から出されてしまった。政教分離の事件は自治体が被告となっているものが多い。アキが説明していた空知太神社訴訟も、確か被告は自治体だ。そして違憲判断が出されたものは全て被告が自治体である。その理由を探れとの宿題。しかもアキの手を借りてはならないとの条件付き。
「ハチくん。これ貸してあげる。手は貸せないけど本はいいよね。」
 アキがハチに手渡したものは『判例六法』だった。付されていた付箋の箇所をめくると、憲法20条「信教の自由」の部分であった。条文の後に夥しい数の判例等が掲載されている。その中に政教分離に関する判例等が多数掲載されていた。
(津地鎮祭が最初か。次は自衛隊員?これは国なのか?後は、箕面市長崎市愛媛県内閣総理大臣ってこれも国なのか?続いて、大阪市、村、市、知事だから県か。即位の礼に大嘗際?近江八幡市、最後も市か・・・)
 判例六法に掲載されている判例等については、国っぽいものもあるが、自治体が提訴されている方が多い。しかも、結果的に違憲とされた事例は、愛媛玉串料愛媛県を初め、どこかの村、空知太神社事件の市、近江八幡市が該当し、全て自治体だ。
(国はなかなか負けないんだなぁ。)
 ハチはもう少し判例六法を読んでいたが、それぞれ微妙に異なることに気がついた。
 津地鎮祭事件は「市が行った神式地鎮祭」。その次は「自衛隊員の行為」。箕面市の事件は「無償で貸与した行為」と「補助金の支出」「市職員の事務従事」。長崎の事件は「補助金の支出」。愛媛県は「玉串料の支出」。総理大臣のものは「参拝する行為自体」。大阪市は「無償使用の承認」。ある村の事件は「観音像の設置」。空知太神社事件は「無償利用供与」。どこかの知事は「参列行為」。即位の礼に大嘗際は「宮廷費の支出」。近江八幡市は「補助金の支出」。ある市の事件は「祝辞を述べる行為」。
(大きく分ければ、人の行為そのものとするか、公金の支出とするか、に区分されるのかなぁ。)


「課長がハチに出した宿題の答え、アキは、当然分かってるな?」
「え、あ、も、もちろんですよー。ハハ・・・」
「では、答えは何だ?」
「あー、っと、訴えの利益がない?」
「それはちょっと違うな。訴えの利益がなければ却下されるが、実例としてあるように、国家賠償法に基づき損害賠償請求し、却下ではなく棄却されている事例もあるからな。だから責任を問うこと自体は可能だ。」
「問うこと自体は可能という表現を用いるということは、その請求が認められることは難しい、ということですか?」
「それはそうだろう。国賠法に基づく請求は主観訴訟の一種だからな。」
「主観訴訟?」
政教分離事件で自治体が被告である場合のほとんどが、住民訴訟としての請求だ。補助金の支出や財産管理などを対象としてな。そして、住民訴訟はいわゆる客観訴訟だ。個人の利益は関係ない。一方、国は、というと?」
「国には住民訴訟に相当する客観訴訟がないので、主観訴訟でやらざるを得ないが、そうすると・・・、国の何らかの行為によりいかなる損害を個人として受けたのか立証しなければならない・・・?」
政教分離は国家と宗教とを分離するという制度自体の保障を規定したものであって、直接に私人の権利ないし自由の保障を規定したものではない。よって、政教分離に反する行為があったことから直ちに国民の権利ないし法的利益が侵害されたものということはできないとされるのが一般的だ。このハードルを乗り越えるのはかなり難しい。総理大臣の参拝行為の違憲性についてはこの理屈でシャットアウトになっている。」
「客観訴訟である住民訴訟であれば、自らの権利侵害は関係なく、補助金の支出や財産管理の是非を切り口に合憲性を争うことができる、と。なぜ住民訴訟と同じような仕組みが国にはないんでしょうかね?」
「そんな制度があれば、国は訴えられまくりだろうからな。」
 アキは妙に納得した。

条例審査ガール ep-37

 政教分離に関する市民活動推進課との打ち合わせが終了した。概ね予想通りの事実関係であり、修繕の対象であった御神輿も、特段特殊なものではなく、当然、何らか宣伝めいたものが入っているものではなく、一般的によく見かける御神輿であった。
 そして、その御神輿に劣化が目立つようになってきたことから、その修繕のための補助金を充ててしまったということであった。
 その補助金の要綱においては「専ら宗教的行為を目的とする使途には充てないこと」との要件が明記されていた。そして、宝亀祭の事務局たる町内会連合会からも、御神輿の修繕に補助金を充てることについてあらかじめ相談を受けており、その際は「問題ない」との回答を、市民活動推進課として行ったようであった。
 「問題ない」との回答を行った理由としては、信仰の自由、国の宗教活動の禁止、公の財産の支出利用制限をうたった政教分離の原則ということも認識してはいるが、この宝亀祭や御神輿は地域に根ざした伝統文化活動の1つであり、社会通念上の世俗的行事であるし、地域社会のコミュニティの育成というものも主たる目的であるため、というものであった。



「もう一歩、踏み込んで欲しかったねぇ。」
 市民活動推進課の回答は妥当だと考えられるが、目的・効果基準からすると、その回答は「目的」しか述べていない。世俗的行事なんだから、その目的は、専ら世俗的なものであるし、地域社会のコミュニティの育成というものも目的であるから、行為の目的には宗教的意義はないし、よって、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為には該当しない、そこまで到達して初めて回答といえるのだろうとアキは考えた。
「ま、とりあえずこの回答案でまたまた相談ね。」



「・・・。」
「・・・。」
 フジも課長も黙ってしまった。
 ハチは何か重大な問題、欠陥があったのではないかと考えていたが、アキは平然としている。
「理屈としては理解できる。」
「フジさんの言うとおり、これはこれで良いとは思うのですが、政教分離っていうのは本当に難しい問題で、これで完璧、というものはなかなかないんですよ。いや、実際、法律上の問題で、これで完璧といえる問題の方が少ないんですがね。こちらは世俗的行為という。じゃ、世俗的行為とは何か?何を満たせば世俗的行為といえるのか?結局は、社会通念や常識なんですよね。」
「あと、結論が抜けている。『よって、補助金支出は適正である』が結論だろう。」
「念のため、顧問弁護士にも相談してみますが、まぁ、同じでしょうね。」



「アキさん、顧問弁護士から連絡があり、政教分離に違反しない立場での理屈であれば、概ね問題ないのではないかということでした。」
「では、あれで回答しておきます。」
「ただし、さきほどお話ししたとおり、これで全く問題ないわけではないということや、顧問弁護士のいうとおり、あくまでも『政教分離に違反しない立場での理屈』であることも付言しておいてくださいね。あとは、相手方が納得してくれればいいんですが。」
 とりあえず政教分離関係の調べものを終わりかとハチは思ったが、
「それで、ハチくん。政教分離の事件、津地鎮祭事件も愛媛玉串料事件も、ともに自治体が被告ですよね?さて、政教分離事件で最高裁において違憲とされたものは全て自治体が被告の事件ですが、それはなぜだと思いますか?」

条例審査ガール ep-36

政教分離に続いては、改正漏れ疑惑案件か。なかなか大変そうだが止むを得まい。)
 フジは給与条例の改正を着実に行いつつ、アキとハチとのやり取りを随時確認していたのであった。
政教分離については概ね問題なさそうだが、電子申請についてはやや誤った方向へ進みそうだな。「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」の制定時期が平成17年くらいだったし、かなりマイナーな条例だから、アキが知らないのもムリはないか。さて、どう導くか・・・。)
 「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」とは、自治体への申請や届出などのうち、その個別条例・規則においては書面で行うこととされているものであっても、その個別条例・規則を改正することなく、電子届出や電子申請で行うことを可能とする条例である。いわゆる通則的な条例といえよう。
 よって、個別の申請行為のうち、個別の根拠条例・規則においては「書面」しか規定されていなくとも、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」の要件さえ満たしていれば、個別の根拠条例・規則を改正することなく、電子申請が可能となる。
 宝亀市ついていえば、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」の適用を受けるためには、その施行規則により、その具体的な内容を定める要綱などが必要となる。よって、その手続さえ踏めば、個別の規則改正は不要なのだ。
 フジは、何でもかんでも条例などの新規制定・改正という方向に進む傾向にあるアキを懸念していた。特定の問題を解決するためには、必ずしも条例などの新規制定や改正が不可欠というものではなく、既存の法令を活用することにより打破できることも当然にある。様々な選択肢から、所管課の相談内容に応じた妥当な解決策を模索し、提案することも法規課の職員には求められるということを2人に伝える必要性を感じていた。


「お二人さん、これよろしくね。」
「げっ!」
「はぁ・・・」
 アキとハチは、訴訟担当主幹の桜木から準備書面を手渡された。
「これは一体・・・」
「これは準備書面といって訴訟マターのやつ。宝亀市が被告となっている保育園廃止訴訟の原告の準備書面ね。これ、チェックして、期日までに一定程度の対応策を考えないといけないの。」
 確かに書面の左上に「保育園廃止処分取消請求事件」と記載されている。
 法規課の業務としては条例審査や法律相談のほかに訴訟対応がある。そして訴訟は法規課と所管課とで連携して対応しており、アキなども訴訟業務を担っているのであった。
「いまワタシ達が担当すべき訴訟はこれ一件だけね。ほら、焼きカレーを一緒に食べた日あったでしょ?あの日がこの訴訟の前回の口頭弁論期日だったの。で、その際のこちら側の陳述に対応した書面がコレね。」
「こちらは陳述なのに、相手は書面なの?」
「民事裁判って、よくあるドラマみたいな熾烈なやり取りは法廷ではあまりないの。あるとしたら証人尋問のときくらい。で、実際は双方とも書面をあらかじめ提出するのが大多数。それで、期日当日に裁判長から『準備書面のとおり陳述しますか?』と聞かれるので『陳述します』と述べれば、その準備書面に記載されている内容を全て陳述したとされているの。だから、口頭弁論って、実際は10分足らずで終了することが多いのよ。」
「じゃ、ひょっとして、この書面ってすごく大事?」
「そうよ。相手方も気合い入れて作ってんじゃない?そうだ、この書面だけではよく分からないだろうから、訴状など今までの書面も渡すからコピーしておいてね。」
 数多くの書籍に続いて、各種資料がやってきたかと思ったら、訴訟関係の種類も矢継ぎ早にやってきたハチの机は、異動初日の面影が完全に消え失せていた。